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名古屋高等裁判所 昭和62年(ネ)424号 判決 1988年8月25日

控訴人

有限会社千代田家具東名店

右代表者代表取締役

神谷敬三

右訴訟代理人弁護士

原山剛三

原山恵子

被控訴人

日産火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

本田精一

右訴訟代理人弁護士

山本秀師

加藤豊

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「(一) 原判決を取り消す。(二) 被控訴人は控訴人に対し、金二〇〇〇万円(原審における金六二三三万円の請求を減縮)及びこれに対する昭和五八年一月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求め、控訴人の請求の減縮に同意した。

二  当事者の主張は、次に訂正、付加するほか、原判決事実摘示第二項記載のとおりであり、証拠関係は、原審及び当審訴訟記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

1  原判決五枚目裏一一行目の「六二三三万円」を「の内金二〇〇〇万円」に改める。

2  同七枚目表四行目の末尾に次のとおり加える。

「なお、古川泰治が本件店舗の店長小野田光廣(以下「小野田」という。)から本件各保険契約締結について明示の委任を受けたことはなく、また、小野田が右契約締結につき控訴人の代理権を有していた事実もない。」

3  同七枚目表五行目から六行目にかけての「右事実」を「右委任を受けていない事実」に改め、同九行目の次に、行を改め「(四)」として次のとおり加える。

「商法六四八条にいう委任は、民法上の委任にほかならないのであって、単に、控訴人が本件各保険契約を知ればこれに反対しなかったであろうという事情や、控訴人が訴外会社に共益費用を支払っていた事実を根拠として、右委任があったとすることはできない。ちなみに、建物の賃貸人において、一般的に賃借人のために本件のような保険契約を締結すべき義務があるとは到底いえず(まして、訴外会社は、本件各保険契約締結後数日のうちに賃貸人でなくなるものであった。)、また、訴外会社が本件各保険契約の保険期間に対応する分として、実際に受け取ることのできた共益費用の額は、その支払うべき保険料の総額(テナント全体についての同種保険に係る合計分)に比し、少額であったから、このような点からしても、訴外会社が控訴人らテナントの委任を受けて、本件各保険契約等の保険料をその受領した共益費用の中から支払っていたと認めるべき余地はない。」

4  同七枚目表一一行目、同枚目裏二行目及び同一三枚目表五行目の「約款」の後にいずれも「第一章」を、同一〇枚目裏四行目の「約款」の後に「第二章」をそれぞれ加える。

5  同一一枚目表一一行目の「抗弁1(一)につき、」から同枚目裏二行目末尾までを次のとおり改める。

「抗弁1(一)は否認する。

訴外会社の代表者である古川は、本件各保険契約を締結するにあたり、事前に控訴人の代理人である小野田に対し、右各契約を締結する旨告知し、小野田においてこれを承諾した。これにより、控訴人から訴外会社に対し、本件各保険契約締結につき、明示の委任が行なわれたというべきである。」

6  同一一枚目裏三行目の「しかし、」を「仮にそうでないとしても、」に改め、同一二枚目裏四行目の「共益費用」の後に「(定額制で、月々の光熱費や維持管理費の明細は、控訴人に全く知らされていなかった。)」を同五行目から六行目にかけての「することを」の後に「義務付けられ、かかる行為を行うについて」をそれぞれ加え、同九行目の次に、行を改めて次のとおり加える。

「なお、商法六四八条にいう委任は、他人を代理人と定めて一定の法律行為を行う権限を付与する民法上の委任のような積極的、能動的行為を必ずしも意味するものではなく、委任者において、自己を被保険者とする保険契約が他者である保険契約者によって行われることを承諾、承認する、あるいは反対しないことをもって足りるものと解すべきである。したがって、被保険者が保険契約の成立した当時、右契約が結ばれたことを知らなくても、これを知っていたら承諾したに違いないか、少なくとも、これを承諾しないということはあり得なかったと認められるならば、商法六四八条にいう委任があったものというべきである。そして、本件において、控訴人は、本件保険契約の存在を事前に知らなかったとしても、これを知ればその契約締結を承諾したに相違ないのであるから、本件各保険契約は、商法六四八条により無効となることはない。

また、以上に関連して、商法六四八条にいう委任の存否を考える上では、共益費用から保険料を支出する合意が存したか否かは、さして重要ではなく、右のような合意がなくとも、保険料を共益費用から支出することが賃借人の意思に明らかに反するものでなければ、そこに賃借建物の保存に有益な行為を賃貸人において行うことを賃借人が包括的に容認する内部関係があったとみるべきであり、このような場合には、賃借人において、共益費用の支払を通じて、賃貸人が本件のような保険契約を締結し、その保険料の支払を行うことを委任したものと解すべきである。」

7  同一五枚目表一〇行目の次に、行を改めて次のとおり加える。

「商法六四八条は、保険者の利益を保護するための規定であり、保険に関する体系的な技術と知識を持つ保険者において、右のように委任の有無を質問すべきは当然である。近時、いわゆる保険契約者の保険者に対する告知義務に関し、質問表に記載されていない事項については、保険契約者に悪意による黙秘がある場合のほかは、告知義務違反は成立しないなどとする学説が有力である。本件においては、保険契約者である訴外会社は、被控訴人から右の質問が発せられなかったため、たまたま控訴人からの委任の有無を告知しなかったにすぎないのであって、このような場合に、契約を当然に無効とすることは、ひとり保険者の利益のみを過大に保護することになって、相当性を欠くものといわなければならない。」

8  同一五枚目裏一〇行目の次に、行を改めて次のとおり加える。

「商法六四八条の規定は、文理上保険者において同条所定の委任の有無を保険契約者に質問すべきものと解すべきものではなく、他にそのように解すべき根拠はない。また、これを実質的にみても、保険契約者が保険者に対して被保険者の委任を受けていない旨告知しない以上、保険者としては、保険契約者が右委任を受けていると信じるのが通常であり、商法六四八条を控訴人主張のように解すべき合理的理由は見いだし難い。なお、控訴人の指摘する学説については、強い異論のあるところであるが、そもそも、右学説は、商法六四四条、六七八条の解除に係る告知義務に関するものであって、同法六四八条の告知の問題に当然に当てはまるわけではなく、また、本件各保険契約は、いわゆる損害保険のケースであって、質問表による質問ということ自体行われないのであるから、いずれにせよ、控訴人の右指摘は的はずれである。」

9  同一八枚目裏五行目の「なるので」から同八行目末尾までを次のとおり改める。

「なるのである。

更に、

(一)  訴外会社は、本件各保険契約締結当時までは、本件建物の賃借人を被保険者とする火災保険を締結しておらず、本件建物について訴外会社を被保険者とする保険契約の保険金の額も三億円程度であったのに、本件各保険契約締結時である昭和五七年八月下旬から同年九月にかけて本件建物の火災保険の保険金額も増加し、本件建物の控訴人以外の賃借人を被保険者とする保険契約も締結し、これらの総保険金額は、被控訴人以外の保険会社を保険者とするものを含めると、総額一二億一九〇〇万円にのぼっていること、

(二)  同じころ、本件建物に隣接する訴外会社所有の建物及び圭子所有の建物について、建物の賃借人のために掛けられた保険を含めると、総保険金額一億九七〇〇万円の火災保険契約が締結されており、右の賃借人のための保険契約については、本件各保険契約と同様、当該賃借人の委任を受けないでその締結が行われていること、

(三)  本件建物の買主であるプラザホテルは、本件売買契約に際し、訴外会社に対し、本件建物に各種損害保険契約を締結しておくよう要請したことは一切ないこと、

(四)  訴外会社の代表者古川は、本件各保険契約を含め、被控訴人と各保険契約を締結するにあたり、本件不動産を売り渡したことを被控訴人に告げず、被控訴人は、本件火災後初めて右事実を知ったこと、

(五)  本件火災は、本件各保険契約を含む以上の各保険契約締結の直後である昭和五七年九月三〇日に発生したこと、

(六)  本件火災の出火場所と考えられるのは、控訴人が賃借中の二階店舗部分であって、婚礼家具等の高級品の陳列されている、通常火の気のない所であったこと、

(七)  訴外会社が本件火災の二日前までに東海市消防本部の指導により設置し、本件火災の二日前である昭和五七年九月二八日完工検査に合格した火災報知器が本件火災に際し作動せず、かつ、その原因は、同報知器のスイッチが切られていたことによる可能性が強く、そのため、東海警察署等において、放火の疑いもあるとみて、本件火災直後から捜査を開始したこと

などの事実があり、これらの事実をも併せ考えれば、本件各保険契約は、保険契約者による詐欺的行為等の危険がない場合ということは到底できず、訴外会社が本件各保険契約を締結した当時、これを行うにつき正当な利益を有しなかったことは明らかである。

10  同一九枚目表七行目の次に、行を改め「8」として「被控訴人の主張2は争う。」を加える。

理由

一当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、次に訂正、付加するほか、原判決理由一、二項説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一九枚目裏一〇行目の「訴外会社」から同二一枚目表一一行目の末尾までを次のとおり改める。

「<証拠>によれば、次の事実が認められる。

(一)  訴外会社の代表者である古川は、昭和五六年の八月から九月にかけて、当時被控訴人の名古屋支店営業二課次長であった浅沼和彦(以下「浅沼」という。)らとの交渉により、被控訴人との間で、本件建物につき、被保険者を訴外会社とする保険金額各一億円、保険期間一年の普通火災保険契約三口を順次締結した。その後、昭和五七年六月、七月ごろに至り、右各保険契約の保険期間の満了が近付いてきたので、古川と浅沼は、右各保険契約の継続等につき折衝を重ね、その結果、同年八月二三日、訴外会社と被控訴人との間で、本件建物につき、前年と同内容の普通火災保険契約を締結する運びとなった。

(二)  ところが、古川は、右八月二三日の契約締結予定の当日、その席上浅沼らに対し、急に、本件各保険契約をはじめとし、本件建物の各賃借人(いわゆるテナント)を被保険者とする普通火災保険契約及び店舗休業保険契約の締結方を申し入れた。そこで、浅沼らが古川に対し、右各契約の内容を定める基準となる右各賃借人の店舗等における在庫高、売上高(粗利益額)、機械、造作の額等を質問すると、古川は、所持していたメモ用紙を見ながら、これらの質問に対し、おおむねよどみなく、応答した。浅沼らは、古川が右のとおり各賃借人の営業内容等につき、あらかじめ作成したメモに基づき応答したことなどから、同人が各賃借人から事前に右各保険契約の締結につき承諾を得ているものと信じ、特段古川に対し、右承諾の有無等を確認することなく、古川の応答に基づいて、保険料等を算定した上、即日、訴外会社と被控訴人間における本件各保険契約をはじめとする、古川の申入れに沿う各保険契約を締結した。

(三)  古川は、右各保険契約を締結する少し前ごろ、本件店舗に赴き、当時同店舗の店長をしていた小野田に対し、「うち(訴外会社の意)の方で保険を掛けておくから。」などと話し、同店舗の在庫高、売上高等を質問した。小野田は、右古川の話を聞き流すという感じで、これに対し余り関心を持たず、簡単に礼を述べるとともに、同店舗の在庫高等については、古川の質問に従って応答した。その際、古川は、小野田に対し、締結予定の保険契約の種類、内容(保険金額、保険期間等)、保険料支払の手だて、訴外会社が保険契約者となる理由などについては、一切触れずに終り、また、右保険契約締結の話を控訴人代表者に伝えてくれるよう依頼することもなかった。その後、古川は、本件各保険契約締結に関し、本件店舗を訪れ、小野田らに報告を行う等の行為は一切しなかったし、小野田の方でも、古川に対し、保険契約締結に関する問い合わせをするなどのことはなかった。

(四)  小野田は、昭和五七年四月ごろから、本件店舗の店長を務めていた(それ以前は、同店の主任であった。)ものであるが、控訴人会社の役員や商法上の支配人ではなく、商品の仕入、販売等本件店舗における日常の営業活動については、一応控訴人代表者から任されてこれを執り行っていたものの、仕入代金の支払、従業員に対する給与支払その他の経理面については、小口の諸雑費の支払を除き権限がなかった。また、本件店舗につき、保険会社と保険契約を締結したり、その交渉をしたりすることはなかった。

(五)  控訴人と同様のいわゆる千代田家具チェーン店(約二二店舗)では、各チェーン店自身が自己の負担において、保険会社と火災保険契約等を締結する例が多く、控訴人店舗においても、控訴人代表者は、早晩他のチェーン店と同様火災保険契約等を締結するつもりでおり、昭和五七年八月ごろも、控訴人代表者自身が、ある保険会社と契約締結の折衝を続けていたが、保険料率について折合いがつかず、正式の保険契約締結には至らない状況であった。小野田は、右のように控訴人代表者の方で保険契約締結の交渉をしていることを聞知していたものであるが、それにもかかわらず、古川から前記のとおり保険を掛ける旨の話があったことを、その後控訴人代表者には伝えずにいた。

(六)  右の経過により、控訴人代表者は、本訴提起後に至っても、前記のとおり古川から小野田に対し、保険を掛ける旨の話があったことを全く知らず、本訴において、商法六四八条にいう委任の事実の存否が重要な争点の一つになったにもかかわらず、最近に至り当審における証人古川泰治に対する尋問が実施されるまで、自ら、あるいは、訴訟代理人を通じて、当時本件店舗の店長であった小野田に対し、右事実の有無につき確認をとることをしていなかった。

以上の事実が認められ、当審証人古川泰治の証言中右認定に反する部分は、その内容に不自然な点があり、原審証人浅沼和彦、当審証人小野田光廣の各証言内容、その他右事実認定に供した各証拠に比照しても、採用することができない。

ところで、控訴人は、商法六四八条にいう委任の解釈につき、これを民法上の委任よりも広い概念としてとらえ、単に、被保険者において当該保険契約の存在を知っていたとすれば、これを承諾したであろうというような状況が存すれば右の委任があったものと解すべき旨主張するので、検討する。

思うに、後記のとおり、商法六四八条の立法趣旨が、主として、いわゆるとばく保険や保険金詐取などの不正行為を防止する点にあることからすれば、控訴人主張のように、被保険者において現実に当該保険契約の存在を事前に覚知しなかったとしても、その存在を知っていればこれを承諾したであろうと推測し得るには、そのこと自体を、右のような不正行為の生ずべき可能性を少なからしめる事情としてとらえ、これをもって商法六四八条にいう委任があったものと解釈する立場が全く考えられないわけではない。しかしながら、同条の解釈として、明文の規定に反し、委任の概念を民法上のそれとは異なるものとしてとらえるには、やはりそれ相当の積極的な根拠が必要であると解される上、現実に、保険契約者から被保険者に対し、当該保険契約の内容などを事前に告知させること自体にも、前記のような不正行為を抑制する機能が存することは、たやすく否定し難いところであり、また、仮に同条における委任の事実が認められなくとも、後記のとおり、当該保険契約締結の際、客観的に不正行為の行われる危険性がなかったと認められる場合には、結局同条により当該保険契約が無効とはならないとの解釈をとることによっても、控訴人の指摘するところとほぼ同様の結論を導くことが可能であることなどを勘案すれば、商法六四八条にいう委任は、基本的には民法上の委任と同様のものとして解釈すべく、右の委任があったとするためには、少なくとも、保険契約者から被保険者に対し、事前に、不正行為を十分抑制するに足りる程度に、当該保険契約の具体的な内容や契約締結の理由などが告知され、被保険者において、かかる事情を十分了解した上、これを承諾したという事実関係の存することが必要であると解するのが相当であって、単に、保険契約者が被保険者のために保険契約を締結する旨伝えたというにとどまるような場合には、右委任があったものとは、いまだ認めることができないというべきである。

これを前示の認定事実に照らし本件についてみるに、訴外会社の代表者である古川は、本件各保険契約締結前、一度本件店舗に赴き、同店店長の小野田に対し、訴外会社の方で控訴人のために本件店舗に関するなにがしかの保険を掛けておく旨簡単に告げたにすぎず、その前後を通じ、右以上に、古川が小野田ら控訴人側の者に対し、本件各保険契約の内容、契約締結の理由等を告げた事実はなかったものと認めざるを得ず、そうであるとすれば、本件において、本件各保険契約の保険契約者である訴外会社が、その被保険者となるべき控訴人から、商法六四八条にいう委任を受けていたものとは、到底認めることができない。

また、前示認定事実によれば、小野田は、本件店舗の店長として、日常の営業活動を行う範囲では、一応控訴人から包括的に、代理権の授与を受けていたとは認められるものの、それ以上に、本件各保険契約の締結や、その委任等を行う権限はなかったものといわざるを得ず、その意味でも、古川が小野田との間で、前示のとおり保険契約に関する会話を交わしたことは、控訴人から訴外会社に対し、商法六四八条にいう委任があったことの根拠にはならないものというべきである。

なお、控訴人は、本件各保険契約締結が賃貸物件についての保存行為としての性格を有すること、訴外会社が控訴人から共益費用の支払を受けていたことにより、これを通じて、本件各保険契約を締結することを賃貸人として義務付けられ、その保険料の支払も右共益費用をもってこれに充てたことなどを根拠として、商法六四八条にいう委任の事実があった旨主張するが、右委任の事実が認められるには、少なくとも、保険契約者と被保険者との間で、当該保険契約の内容などにつき具体的な告知とその承諾の行われることが必要であると解すべきことは前示のとおりであって(なお、前示のとおり、古川は、小野田に対し、訴外会社の方で保険を掛ける旨話した際にも、これと共益費用の関係等については、一切触れなかったものである。)、控訴人の主張する右の各点の当否はともかくとしても、これらの点を根拠として、商法六四八条にいう委任があったものとすることは、到底採り得ないところといわなければならない。

以上によれば、抗弁1(一)の事実を認めることができ、これを争う控訴人の主張は、いずれも採用し難いものというべきである。」

2  同二一枚目裏二行目の「右事実」を「控訴人から委任を受けていない事実」に改める。

3  同二三枚目表三行目の「主張するが、」から同七行目の「とおりである。」までを次のとおり改める。

「主張する。しかしながら、一般に、建物の賃貸人が賃借人から共益費用を受領しているからといって、それにより本件のような保険契約を締結すべき義務を負うものとは到底解されない上、原審証人浅沼和彦の証言、当審における控訴人代表者尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、控訴人は、訴外会社と賃貸借契約を締結した昭和五四年八月ごろ以来、継続して訴外会社に対し月九万円の共益費用を支払っていたものであるが、その後訴外会社から、右共益費用を保険契約における保険料の支払に充てたい旨、あるいは、これを将来右のような保険料支払に充てるつもりである旨告げられたことはなく、また、訴外会社は、右のように控訴人から継続して共益費用を受領していたのに、本件各保険契約を締結するまでの約三年間は、控訴人を被保険者とする本件のような保険契約を締結していなかったことが認められ、更に、本件各保険契約締結時の前後においても、訴外会社側から控訴人側に対し、共益費用を保険料の支払に充てる方法で保険契約を締結する旨の説明が一切なかったことは、前示のとおりであって、以上の事情を考え合わせると、控訴人が訴外会社に共益費用を支払っていた事実から、訴外会社において、本件のような保険契約を締結し、その保険料の支払に共益費用を充てるべく予定されていたものとは、到底認めることができない。」

4  同二三枚目表一一行目の「第一四号証」から同枚目裏一行目の「第二四号証の一、二」までを「第一八、第一九号証、第二四号証の一、二、原本の存在及び成立に争いのない乙第一四号証」に改め、同六行目の「でき、」の後に「当審証人古川泰治の証言中以下の認定に反する部分は、右事実認定に供した各証拠に比照し採用できず、他に」を、同二七枚目裏一〇行目の「したがって」の後に「、控訴人主張の根拠をもって」をそれぞれ加える。

5  同二八枚目表二行目の「のみならず、」の後に「前掲乙第三五ないし第四二号証、第四四ないし第五一号証、」を加え、同四行目の「第三五ないし第五三」を「第四三号証、第五二、第五三」に改め、同六行目の「第五八号証」の後に「、第八〇、第八一号証」を加え、同行目の「証人浅沼和彦」から同八行目末尾までを次のとおり改める。

「原審証人浅沼和彦、同武藤克美、当審証人古川泰治(ただし、後記採用しない部分を除く。)の各証言と弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、当審証人古川泰治の証言中以下の認定に反する部分は、右事実認定に供した各証拠に比照し採用できず、他にこれに反する証拠はない。」

6  同二八枚目裏一〇行目の「右の賃借人」から同二九枚目表一行目の「締結されていること、」までを次のとおり改める。

「前示のとおり、古川は、昭和五七年八月二三日、被控訴人との間で前年と同様の各保険契約を締結することとなっていたが、その席上、被控訴人側に対し、突然、本件各保険契約をはじめ本件建物の各賃借人を被保険者とする普通火災保険及び店舗休業保険の締結方を申し入れたものであること、古川は、右各賃借人から、進んで右のような保険契約を締結してくれるよう依頼、要望されていたわけでもないのに、被控訴人以外のいずれかから、新種の保険として店舗休業保険というものがあることなどの知識を得た上、右各保険契約を締結しようとしたものであること、」

7  同二九枚目表二行目から三行目にかけての「プラザホテル」を「訴外会社」に改める。

8  同二九枚目裏六行目の「原因は」の後に「、当時」を、同七行目の「強い」の後に「とみられた」をそれぞれ加え、同九行目の「開始したこと。」を「開始したこと、実際は、右火災報知器のスイッチは、古川の一存によって、右完工検査に合格した直後に切られていたものであること。」に改める。

9  同三〇枚目表一行目の次に、行を改めて次のとおり加える。

「結局、以上の諸点にかんがみると、再抗弁1の主張は、採用することができない。」

10  同三〇枚目裏二行目の「証人浅沼和彦の証言によれば、」を「前示のとおり、」に改め、同四行目の「信じていたことが認められる。」を「信じていたものであり、また、前示認定の事情によれば、被控訴人側でそのように信じることも、あながち無理からぬ状況が存したというべきである。」に改める。

11  同三〇枚目裏九行目の末尾に「したがって、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないものといわざるを得ない。」を加える。

二よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官宇野榮一郎 裁判官日髙乙彦 裁判官畑中英明)

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